「青空のむこう」(シアラー)

死んだ少年の爽やかな「成長物語」

「青空のむこう」
(シアラー/金原瑞人訳)求龍堂

トラックにはねられ、
気づいたときには「死者の国」に
立っていた少年ハリー。
150年前に死んだアーサーと
仲良くなり、彼の導きでハリーは
「下の世界」へと降りていく。
ひどい言葉を投げつけてしまった
姉エギーに詫びるために…。

不慮の事故で死んでしまった
小学生の少年の、
「死んでからの冒険」です。
「死者の国」に入ってから、
「やり残したこと」を成就し、
「彼方の青い世界」へと成仏するまでを
描いています。
決して重くならず、
作者特有のユーモアが主人公ハリーから
遺憾なく発揮されていて、
温かな感動に包まれます。

本書は人間の生と死を考えるべき
作品なのですが、
少年の成長物語として読むことも
可能です。
ハリーは死んでから
さらに大人へと一歩近づくからです。

下界へ降り立ったハリーは、
自分が通っていた学校へと向かいます。
クラスの人気者であり、
サッカーの選手だったハリーは、
自分がいなくなったことで
学校全体が哀しみに沈み込み、
生活が滞っていることだろうと
思っていたのです。

ところが、ハリーの席には
転校生のボブが座り、
クラスは何事もなく
平和な日常が流れていたのです。
自分は決して特別な存在では
なかったことに気付きます。
死んだ者の時間は止まっていても、
生きている者の時間は
しっかりと流れていることを
知るのです。

もちろん教室の一角には
ハリーを偲んでの思い出コーナーが
作られていました。
そこでハリーは
自分を目の敵にしていた
ジェリーの作文を見つけます。
そこには仲直りしたかったのに
それができなかったジェリーの
悔恨の気持ちが綴られていたのです。
ハリーはお互いの誤解と
意地の張り合いが
対立を招いていたということに
気付くのです。

最後に立ち寄った我が家。
そこでは家族三人が
悲嘆に暮れていました。
生きている者の時間は
しっかりと流れるものの、
子どもを失った家族の時間は
そのまま止まっているのです。
そして自分の存在は、
学校や友人たちの間ではなく、
家族の中でこそかけがえのない
大きなものであったことを、
ハリーは思い知らされるのです。

自分を見つめ、自分を知る。
これこそが少年から大人への成長です。
死者の無念の物語であるにもかかわらず
爽やかな気持ちになれるのは、本作品が
少年の成長物語だからなのです。

気持ちが家族から離れ、
友人の間でしか自分の存在を
確かめられなくなる年代、
中学校1年生に強く薦めたい一冊です。

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(2019.7.16)

Peggy und Marco Lachmann-AnkeによるPixabayからの画像

※シアラーの本です。

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※海外の児童文学作品の記事です。

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